2011年07月02日

Paul Auster

いまさらワシがどうこういうこともない人気作家、ポール・オースターだけど最近は翻訳がやや停滞気味。
昨年やっとこさ2003に発表された"Oracle Night"が出た。オースターといえば柴田元幸氏、あまりにもはまりすぎて他の翻訳者ではファンが納得せんからか。 柴田氏もまだまだいっぱい翻訳したいのがあるみたいだし。

氏は文芸誌「すばる」でフィリップ・ロスの「プロット・アゲンスト・アメリカ」の翻訳連載を始めたし、ピンチョンの翻訳も手がけてるしな〜。「プロット〜」は原書で読んだけど、難しかった。まだPBを読み始めて1年たってない頃だったから、英語力が足りなかったという面もあるけど、いま読んでも大丈夫かというと疑問。

有名な飛行家、チャールズ・リンドバーグがルーズヴェルトを破ってアメリカ大統領に就任し、対ナチドイツ宥和政策を取りはじめた・・という歴史IF小説であります。(リンドバーグは二次大戦中はドイツと中立条約を結ぶべし、と米国議会で演説したことがあり、親ナチ派で有名だった。戦後、ハワイに移住しひっそりと余生をおくったという。もともとアメリカは「モンロー主義」の孤立主義の伝統があり、あながちリンドバーグが突拍子もないことをいってたというわけでもないんだとか。それにリンドバーグはナチが礼賛した北方ゲルマンのスエーデン系移民の子、つう事情もある。)

それはさておき、オースターだけど文章が抜群に読みやすい。ワシはPBかけ出しの頃、このひととイシグロのばっかり読んでたな〜。だいたい、PBで読もうと思ったのは柴田氏自身が「翻訳者がこんなことをいうのはなんですが、オースターの文章は非常に簡単なのでぜひ原書で読んでみてください」っておっしゃってたからだ。ホンマかいなと試しに読んでみたら、実に読みやすかったです。名翻訳家柴田氏と辻翻訳家(アーチー氏談)のワシがいってるのだから、間違いないのだ。

文章が読みやすいだけではなく、ストーリー展開も巧みだからいいんですよね。
ワシがいちばん最初に読んだのは確か"Moon Palace"で、これが抜群に面白かった。偶然また偶然の連続でストーリーが展開して「んなアホな」と苦笑しつつも読ませてしまう作品です。

moonpalace.jpg

それから、"The New York Trilogy"。中篇3作で成り立つ作品だけど、それぞれが絡み合っていてワケがわからんまま面白かったな。ミステリ的要素が絡んでいて「それで、それで」ってかんじ。

んでから、"Music of Chance"。これもちょっとありえないシチュエーションに主人公二人が巻き込まれていくんだけど、サスペンスみたいで面白い。ラストが衝撃的で印象に残りました。

newyorktrilogy.jpgmusicofchance.jpg

この3つはオースターの初期の作品で、どれを読んでも面白いと思う。とてもオススメ。

で、ワシがいちばん印象に残ったのは"The Book of Illusions"。上記の派手な仕立ての小説に比べるとずっと内省的で地味というかモノクロの写真、ってイメージ。でも人物描写が(痣のある女性とか)抜群で、ワシはこの作品がいっとう好きだな。ひとによっては退屈、って思うかもしれない。

thebookofillusions.jpg

このへんから作風が変化し始めて、危機に陥った人物がどのようにして救済されていくかというテーマが主題になってくるかんじ。好みはあるかもしれないが、ワシはあまり面白いとは思えないな。"The Brooklyn Follies"はいろいろな人物が織り成す悲喜劇ってかんじで面白かったけど。オースターの原作による映画、"Smoke"や"Blue in the Face"の延長線上にある読み物ってかんじです。

近作の"Man in the Dark"(2008)、"Invisible"(2009)、"Sunset Park" (2010)はな〜。
なんというか、意図的にストーリーの展開を妨げるアンチクライマックスっぽい、やや実験的な作風というんでしょうか。ワシはただの本好きで文学理論はわからないから、正直面白いとは思えないな。

Sunset-Park.jpg

昨日"Sunset Park"を読み終えた。不幸な事件をきっかけに大学をドロップアウトし家を出た青年。サブプライムローンの破綻により競売された家に残されたガラクタを処分する仕事に就いている。可愛い高校生のガールフレンドもできた。しかしガールフレンドの家族と諍いとなり、故郷のNYに戻ってくる。友人がSunsetParkという場所の廃屋を改造し、タダで住み着いていてそこに転がりこむことに。男女6人の共同生活が始まるー。

面白そうでしょ。じっさい、共同生活が始まるとこまではヒジョーに快調で面白かった。しかし、しかしですよ。この小説のストーリーは実質ここで終わり。あとは延々と人物描写が続いて、退屈きわまりない。申し訳程度にラストがくっついてる。とちゅう、前2作のことがあったからなんか嫌な予感がしてたのだけど。

なので、途中を思い切りすっとばしてしまった。これは読んだうちに入らないな〜。残念。

まあワシの個人的な感想なので。しかし、前2作のネットでの日本のPB読みの評価はあまり芳しくないのが多いような。オースターはファンが多いのでワリと目に付く。"Invisible"は読んでるときはけっこう面白かったんだけど、なんだか奇妙な話で読み終わったあと「???」でしたな。

かなり残念だったので、なにか面白そうなの読みたいが、時間が(涙)。もう来月には案内士試験だし。

Anchorsongさんがカウントダウンに入って「はー」「(涙)」とかやってはるけど、この人の場合これが出てくると本気モードのシルシなのだ(笑)。ワシもやらなアカンな〜。6月はちっとも邦文試験問題をやらなかったので、歴史・地理とも記憶は大阪平野に積もった雪の如く淡く消え去ったようなー。

ということは、いまからやってたら8月下旬の試験の頃にはまた忘れてるんじゃないかという悪寒。といってサボりたい誘惑にも駆られないほど事態は切迫気味。といってまたきょうは何もしなかった。ちょっと先週忙しかったし・・・。明日は一般常識対策の本を買いにいこうっと。
posted by デンスケ at 20:55| Comment(6) | オススメペーパーバック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年03月15日

Tim O'Brien

なんかブログを書こうとしても、現実の重みからしたらなんとも卑小なことに思えてなかなかその気になれない。所詮おっさんのたわごとなんだから、そんなに考えなくともよかろと思うんだけど、なんだかな〜。

というわけで、時事に関係ないPBネタであります。

ティム・オブライエンは何度か書いたような気がするんだけど、きちんと書いたことはなかったような。
村上春樹が惚れ込んでいる作家で、氏の翻訳でメインストリーム文学系にしては知られているほうだろうか。オブライエンの来歴とかは↓を参考に。(リスニングのよい教材だけど、長すぎる・・・。)



ワシがいちばん最初に読んだのは"The Nuclear Age"で、これが面白かった。

the nuclear age.jpg

核戦争にobsessionを抱く主人公がひたすら自力で核シェルターを掘り進め、自らの半生を回想してゆくって内容。どう面白いかってのは説明するのはなかなか難しいですね。純粋に奇抜な冒険譚としても面白いとは思うけどな。文章は無骨なかんじ。そっけないというか。しかしこの文章でないと成立せんやろな〜とも思う。スティーブン・キングの文章が「書いても書いても書き足りない」強迫観念にとらわれていて、それがゆえにキングワールドを創っているのと少し似たかんじだと思う。

続いて読んだのが"The Things They Carried"。邦題は「本当の戦争の話をしよう」でわかるように、ベトナム戦争を扱った短編集。しかし単にベトナム戦争を扱った作品集というわけでなく、突き抜けた破壊力をもった素晴らしい作品が詰まっている。これは本当にいい作品。アメリカでは国語のテキストになってたり、日本でも教科書に載ってたんじゃなかったかな。

thethings theycarriied.jpg

とりわけ印象に残ったのが "Sweetheart of the Song Tra Bong"という作品。兵士の恋人が前線にやってきて、最後は戦争と一体化していく幻想的な内容なんだけど、怖かったなあ・・・。幻想的な短編小説としては内田百閧フ「旅順入城式」に比肩する読書体験でした。ガツンときまっせ。

それから"Going After Cacciato"(「カチアートを追跡して」)を読んだ。これもベトナム戦争ものなんだけど、脱走兵カチアートを追いかけてしまいにはパリに到着するという奇想小説。1979の全米図書賞受賞作。(あの「ガープの世界」を蹴落とした。「ガープの世界」は翌年受賞。)

goingaftercacciato.jpg

あと二つほど読んだけど、ここでは割愛。ベトナム戦争モノつうことで敬遠される人も多いかもしれないけど、別に全部が全部、戦争の経過を描いているわけではない。むしろ兵士の日常生活やら幻想的なイメージ、また徴兵を忌避した青年の苦悩を描いた作品など多岐にわたっていて興味深いです。

意外と村上春樹キライ、つう人が多いみたいだけど、それはそれとして(笑)良い作品を書く作家だと思います。村上春樹キライならぜひ原書で読んでみてほしい。マジおすすめです。
posted by デンスケ at 07:30| Comment(2) | オススメペーパーバック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月03日

On the Road / Jack Kerouac

辞書で有名なRandom Houseが発表している"100 Best Novels"っつうのがあって、これは20世紀に英語で書かれた小説が対象だったかな。Conradの"Heart of Darkness"は1900年だから19世紀のはずだけど・・・。まあ近代小説ってくくりでええんかな。
http://www.modernlibrary.com/top-100/100-best-novels/

批評家部門と一般読者部門に分かれていて、一般のほうの1位はAyn Randという作家。誰やそれ。聞いたことないぞ。調べてみたら、アメリカの作家・哲学者で強烈な自由主義信奉者であるとのこと。なんかちょっとカルトめいた人気があるとかで、組織票ではないか?なんてギモンも出ているとか。ふうん。あれやね、日本のベストセラーに必ず出てくる「ナントカの法」みたいなもんかいな。と書くと、どっちかの信奉者が怒り出しそうだな。

で、批評家部門のほうが一般によく引用されるんだけど、1位が「ユリシーズ」で2位が「ギャツビー」、以下有名な作品がズラズラ。恥ずかしい話しながら、翻訳でもあまり読んだことないな。「ギャツビー」、「キャッチ22」「八月の光」「心は孤独な狩人」くらいか。

原書で読んだことがあるのって、George Owellの"Animal Farm"ぐらいかしらん。もっとも、大学の英語の授業で1年かけてやっただけだけど。以前は"1984"のほうは力が入りすぎた失敗作という評価だったと思うけど、このリストでは上位に来てるな。ワシは"Animal Farm"のほうが面白いと思うんだけど。ユーモラスで、残酷で悲惨な作品だ。

このリストはコンテンポラリーなのは含んでなくて、ある程度評価の固まったのばかりだから原書で読んでないのもしゃあないんかいなと思うけど。しかし4位の"Lolita"と11位の"Under the Volcano"はいつか読破しちゃろうと画策している。どっちも持ってるけど、いまの英語力ではよめましぇん。シクシク。

もうひとつだけ原書で読んだことがあるのが、55位の"On the Road"だ。3年ほど前に読んだかな。洋書屋の500円均一に突っ込んであったので買ったんだけど、強烈な印象でした。内容は単純で主人公が相棒と連れ立ってアメリカ大陸を車で放浪する、その記録。

on-the-road-penguin-classic.jpg

何がいいって、文章の強烈なスピード感がいいんですよね。
"I first met Dean not long ago after my wife and I split up. I had just gotten over a serious illness that I won't bother to talk about, except that it had something to do with the miserably weary split-up and my feeling that everything was dead. With the coming of Dean Moriatry began the part of my life you could call my life on the road."

出だしのところだけど、グイグイと引っ張っていくような文体でずうっと続いてゆく。ケルアックはこの小説をわずか3週間くらいで書き上げたそうだけど、さもありなんというかんじ。書かれたのは1951だけど、発表されたのは1957で3年ほど前に発表50年記念とかで青山南さんが新訳を出してたような。でもこの作品はできれば原文のスピード感に酔うほうがいいと思うので、興味のある方は挑戦してみてください。楽しいよ。

この小説は"Beat Generation"の代表作みたいな扱いで、のちのヒッピーカルチャーやロードムービーに多大な影響を与えるのだけれど、ケルアック自身はどちらかいうと保守的でヴェトナム戦争にも賛成していたらしい。のちにアルコール依存症となりヒッピーに悪態をつくとかしながら1969に47歳で死んだんだとか。1922生まれだからワシのとーちゃんや水木しげる翁と同い年くらいやな〜。

ギャツビーで思い出したけど、この商標で男性化粧品を売り出してるマンダムはむかし「丹頂」って名前でポマードとか売ってたんだけど、「マンダム」が当たったので名前変えちゃったんだな。そのうち「ギャツビー」とかに代わるかも・・・。



「お前、アゴになんかついてるデ」
「え、どこどこ(とアゴをさわる)」
「う〜ん、マンダム」
posted by デンスケ at 18:54| Comment(10) | オススメペーパーバック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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