2011年04月30日

Tokyo Year Zero / David Peace

371p、読了。

tokyoyearzero.jpg

えらくペースが早いんだけど、これには理由があってこの作品、地の文章にしつこく同じフレーズが繰り返されるのです。全体の1/3がそんなかんじで、いちいち付き合ってられない。最初は面白いのですが、もうええかげんにしてくれよといってもどこまでも続く。半分くらいからほぼ流し読み。

終戦直後に発生した連続婦女殺人「小平事件」を軸に、これを捜査する刑事と闇市で蠢く暗黒社会の住人。GHQによる戦犯探し。混乱を極める戦後の東京。買出し。パンパン。リンゴの歌。そういうのを描いてます。出てくるのは日本人だけ。

この作品は文藝春秋社がえらく力を入れて、イギリス出身の気鋭の作家に終戦後の混迷の日本を描かせ企画段階から関わっていたらしい。英語・日本語同時発売と気合が入ってたのに、あんまり話題にならなかったような。何年か前のこのミスかなんかで5位だったかな。いちおうミステリ仕立てですが、幻想小説みたいですね。ワシはちょっと夢野久作「ドグラ・マグラ」を思い出した。あとなんとなくラストは上田秋成の「雨月物語」を連想させた。

ややネタバレ気味ですが、ああいうフレームが壊れた作品だと「ドグラ・マグラ」を読んだことがあるひとなら分かるかもしれない。文章も壊れてる。すんげえ読みにくいの。英語自体はむしろ単純なんだけどね。

で、面白いかといわれたらう〜ん。変な小説だ。バーゲンで300円だったので腹も立たないけど、1500円くらいしてたら怒ってるだろうな。筋立てはえらく単純なんですが、叙述トリックで持たせてラストまで、というかんじ。まともなミステリではないことは確か(笑)。

「見ざる・いわざる・聞かざる」になってる日本の戦後の暗黒に斬りこんでいくっていう期待があったんだけど、そっちを期待すると思いっきり「スカ」ですな。

「見ざる・いわざる・聞かざる」は"Hear no evil, see no evil, speak no evil."つうらしいけど、順番が微妙に違いますな。語呂の問題かな。この作品の感想も"Speak no evil"ってかんじであります。

"Speak no evil"というとWayne Shorterの同名アルバムが思い出される。ワシの大好きなソリッドなJazzだ。こういうのを聴いてると濃いコーヒーが飲みたくなりますね。



これでことし9作目。この作品は読んだうちに入るんかいな(汗)。さて、次は何を読むかな〜。
posted by デンスケ at 17:48| Comment(2) | PB | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月26日

MASH / Richard Hooker

219p、読了。

mash.jpg

短いし、翻訳を読んでたのでスイスイ進みました。文章は口語的な表現が多く了解不明なのが多かったですが気にシナ〜イ。前線からすぐの野戦病院での風変わりな医者たちのハチャメチャな日常を描いたユーモア(というよりスラプスティック)小説です。

著者のリチャード・フッカーは外科医で、朝鮮戦争にも従事。容易に推察できるように、pseudonymです。翻訳を読んだ時点では「覆面作家」くらいしか紹介されてなかったけど、wikiにプロフィールが載ってた。1924生まれということは、医学生なので第2次大戦には従軍しなかったんでしょうね。

「戦争のおろかさを描いた反戦小説」とか見られがちだけど、作者自身はそんな意図はなくオモシロ小説を書いただけだったとか。どっちかいうとconservativeな信条の持ち主だったらしいです。序文に"the tactical peculiarities of the Korean War"ってあった。

先般、ハルバースタムの朝鮮戦争のPBを読んだのだけど、これによると朝鮮戦争は「勝ってはいけない」戦争だったらしいです。アメリカは油断していたところを金日成に衝かれ、危うく朝鮮半島から駆逐されそうになるけどマッカーサーの大博打(仁川上陸作戦)で形勢逆転。勢いにのって中国国境くらいまで進軍したところで中国軍の介入を招き38度線まで押し戻される。

ここでマッカーサーが核兵器の使用あるいは中国との全面戦争をかんがえており、暴走を恐れたトルーマンによって解任されたのは有名な話ですね。で、リッジウェイがその後任に当たったのだけど、"the tactical peculiarities of the Korean War"ってのはこのあとの朝鮮戦争の展開にあるらしい。

つまり、
・半島を西側勢力で統一してしまう=西側勝利だと、中国ひいてはその後ろにいるソ連との全面対決が避けられない。
・半島を放棄する=西側敗北だとアジアにおけるアメリカの影響力が大幅に低下する。なによりすぐ近くの日本に影響が大きい。

というわけで、勝つことも負けることもできず、ただ妥協点を探るために戦闘が続いていた、ってことらしいです。結局、戦争前の38度線で停戦になったのはやむなしだったんでしょうね。しかしそのために流された血というものは・・・。

偶然だけど、朝鮮戦争に関連するPBをこの1年で3冊読んだことになる。(あと1冊はPhilip Roth "Indignation")次は何を読もうかな。読みかけの"Tokyo Year Zero"か。暗くてなんか凹みそうなんですが。これでことし8冊目。月2冊ペースでよろしいな。


スーちゃん・・。ワシは特にファンってワケではなかったけど、受験勉強で聴いていたラジオでいっつもかかってたキャンディーズ。女優としてのスーちゃんはお母さん役が多かったっていうけど、キャンディーズのイメージが強くてね。「お母さん女優」というイメージだとワシらはつい京塚昌子さんなんか思い出すんだけど、「肝っ玉母さん」を演じてたときにはまだ40歳前だったってことにビックリです。
posted by デンスケ at 06:59| Comment(4) | PB | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月19日

The Wycherly Woman / Ross Macdonald

278p、読了。

wycherly.jpg

富豪の一人娘、フィービが失踪した。父親に依頼され調査を始めた私立探偵、リュウ・アーチャー。なぜか依頼人はその離婚した妻との接触に反対する。しかし、フィービが最後に目撃されたのは母親と一緒にいたところであった。調査を進めるうちに、次々と殺人が起こり・・・。

三大ハードボイルド作家のしんがり、ロス・マクドナルドであります。一般に三大ナントカっつうとひとつは思い出せないもんである。日本三景は松島・天橋立。あとなんだっけ。日本三大大仏は明らかに富山の高岡大仏が無名。日本三大私学といえば、慶応・早稲田は誰でも答えられるけどあとイッコはなかなか出ない。上智?日大?へたすりゃ国際基督教大なんてどこからそんなマイナーなんが出てくるんだよと、忘れられたもういっこの大学出身は思うわけです。

話が逸れた。ハードボイルド界の同志社、ロスマクだな。

この本はもう30年以上前に翻訳で読んだ。一般にロス・マクドナルドの最高傑作というと「さむけ」かこの作品が挙げられるんでしょうな。「さむけ」もそれくらい昔に読んで、あまりにも印象が鮮烈だったので「ウィチャリー家の女」の印象が薄くなりすっかりプロットとか忘れてたんだけど、途中で思い出した。つうか、基本的に同じ設定ですなあ。

それでもやはり面白い作品には違いないですね。律儀に伏線を回収していってがっちりとした作り。ロスマクはチャンドラーの後継者としてよく比較されるけど、チャンドラーが多分にそのときのノリでストーリーを展開しいくジャズっぽいかんじだとすれば、ロスマクは調性と構成を重視するクラシック音楽かな。
と、クラシックはまるっきり知らないクセに知った口を叩いてみたり。

ロスマクはワシがもっとも多く作品を読んだ作家だと思う。長編の翻訳は全部読んでるハズ。後期の作品はどれもおんなじ、つう評価もあって、まあ確かにそうともいえそう。なんでそんなにハマったのかかんがえてみたら、ロスマクの作品の多くを手がけてる小笠原豊樹氏の訳業によるところが大きい気がする。

チャンドラーの清水俊二氏はチャンドラー節の気の利いた翻訳を世に広めたし、稲葉明雄氏の「幻の女」の名訳も有名。しかるに小笠原豊樹氏のロスマクは原作自体がやや派手さにかけるせいか、そこまで有名ではないんだろうな。ワシは原作の雰囲気をかなり忠実に伝えてるなあ、と原書を読んで改めて感服いたしました。しかし主人公リュウ・アーチャーのイメージが記憶とビミョーに異なるのですね。翻訳よりやや攻撃的なかんじ。このへんは感じ方に個人差があるだろうし、ワシの英語力も怪しいもんだから、あんまり本気にせんとって欲しいな、と思いますが。

さて、原作だけど非常に読みやすい英語。簡明、ってかんじ。もうロスマクを読むひともすっかり少なくなっちゃっただろうけど、チャンドラーとは違った意味で名文家だなあと思う。(ワシはチャンドラーは「プレイバック」以外、長編は原書で読み直した。「長いお別れ」ってそんないい作品か、「大いなる眠り」のほうが数段いいやん、と改めて自分の評価を再確認した。案外「「高い窓」っていい作品だなとも思いました。)

ロスマクは文章が非常に読みやすく、誠実な作風なのでクラシック・ミステリとして再評価が進まないかなあ。ワシ個人としてはクリスティとかより格段にいいと思うけど、ワシはいわゆるフダニイットが大嫌いなので偏見入ってるし(笑)。でもまあ、英語の学習用としても本当にいいアイテムだと思いますよ〜。
posted by デンスケ at 21:56| Comment(7) | PB | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。