2010年12月01日

おとなしいアメリカ人(The Quiet American/Greham Greene)

180p、読了。

ついこのあいだ休止するといっておいて早速更新更新かい?と怒られそうだけど、1ヶ月くらい休もうかなと思ってたのは事実です。その間にゆっくりPBやら新聞を読んで考えたことを熟成させようかなと。しかし非常に面白い本だったので、感想が新鮮なウチに書いておかないとその間に感じたことが変質しそうだったので。いまの情勢とも非常に絡む内容でもあるしね。

Quiet American Penguin.jpg

この小説はグレアム・グリーンの代表作のひとつと目されていて、大学の政治学でも参考テキストとなることが多いらしい。グレアム・グリーンって「第三の男」の原作者ですね。ワシはそれくらいしか知らなかったけど、この作品がアメリカの介入前のインドシナとアメリカとの関わりを描いてるということは知っていた。

舞台は1950年代初頭、フランス占領下のヴェトナム。独立戦争(第一次インドシナ紛争)たけなわの頃。主人公は中年のイギリス人新聞記者。ヴェトナム人(華僑系かも)の若い情婦(というか現地妻)がいる。そこに若い、物静かで思慮深いアメリカ人が「経済援助団」の一員としてヴェトナムにやってきて主人公の友人となり、彼らの生活に割り込んでくるのであります。若いアメリカ人は真率な愛情で主人公から愛人を奪い取る。しかし、この"A quiet American"は死体で発見された。なぜ、どのように彼は殺されたのか?というところからストーリーは始まります。

小説は時系列が錯綜していて若干読みにくいけど、死の真相をラストに持ってくるにはやむをえなしか。なんとなくミステリっぽいけど、政治小説としても、恋愛小説としても読める点が優れた小説の証明でもありますね。この小説が高い評価を得ているのは、内容がその後のアメリカのヴェトナム介入が必然だったという予言と、「ひどくぶん殴っておいてから、バンドエイドを支給する」その後のアメリカの一貫した外交姿勢を描いている点だと思う。(この作品が書かれた時点では、アメリカはヴェトナムに軍事介入していない。)

ワシはヴェトナム戦争関連の書物が好きで、これは物心ついてからの「ヴェトナム=戦争」という刷り込み、思春期の70年代にヴェトナム物の映画がいっぱいあったこと、加えていちばん愛読していた日本の作家である開高健とヴェトナムが切り離せない関係だからであります。(開高健の「輝ける闇」はワシの生涯で最も印象深かった作品のひとつです。「輝ける闇」は「おとなしいアメリカ人」を超える作品を、という意気込みで書かれたらしい。事実、類似点がいくつも見つけられる。)

「地獄への道は善意で敷き詰められている」という古い箴言があるけれど、アメリカの外交政策にこの傾向が顕著に見受けられることは皆さんもご存知だろうし、この作品に:語り手=黄昏のヨーロッパ、真の主人公=若く現れつつあるアメリカ、情婦=語り手とアメリカ人の間で揺れる「若いけれどタフな(=ある種老成している)アジアという構図を見つけるのはたやすいことだと思う。しかし、ヨーロッパにもアジアにも、その言い分はあるのだ。あまりにもアメリカが雄弁なので、ちょっと引いてしまってるだけ。その意味で、なんとも象徴的な題名だ。

どの国でも民族でも若い者が理想に燃えるあまり柔軟さに欠けるというのはあると思うけど、アメリカは何か極端に思える。もともと清教徒の創った国なせいか、妙に潔癖で保守的で多元的な価値観を認めない性癖があるように思える。(ハリウッドでヌードが出てきたのはヨーロッパに比べずいぶん遅い。ちなみに"give a damn"という表現をはじめて使った映画は「風と共に去りぬ」で、ずいぶん論議を呼んだらしい。宗教関連だからだろう。)

アメリカがアジアやヨーロッパに説教を垂れるのは「若いものが老人に説教する」ある種の滑稽さがあるけれど、その真ん中が人権や自由といった普遍的価値であるだけに理論的には反駁しにくい。しかし、なにかしら居心地の悪さが認められるのは事実だろう。その先にあるものが何であるかは減殺進行形で進んでいるものが歴史になったときに検証されるものであると思う。

まあなんかわかったようなわからんような観念的なこと書いたけど、この小説の冒頭は語り手と情婦がアヘンを吸引するシーンから始まる。しかし、「おとなしいアメリカ人」はアヘンを嗜まない。この辺の描写が上記を象徴する描写であると思う。

アメリカの面白さと迷惑なところは、保守的で多元的な価値観を認められない精神と、移民で構成された肉体が同時に存在しているところだろう。いまでアメリカで起こっている問題は、肉体は徐々に中年に達しているのに精神がそれを認められない段階に達したことによる更年期障害かもと。

作品自体に戻れば、さすがに名高いだけあり、いろんな読み方ができる。ただし、背後関係の知識がないので、ややツライ描写が多い。グリーンは名文家であるらしいけど。あと、フランス語が頻出する(フランス占領下だから当たり前だけど)のもフランス語がサッパリわからないのでかなりシンドイものがある。

個人的には、同時進行で読んでるハルバースタムの朝鮮戦争を描いた"The Coldest Winter : America & Korean War"とほぼ同時期を扱ってることもあり、非常に興味深かったです。
内容には関係ないけど、PB,小口がぐちゃぐちゃで同人回覧誌でももちっとマシだろと。ここまでぐちゃぐちゃで出荷するほうがむしろ難しい気がする・・・。

ハルバースタムを読み終えたら、感想をアップする予定。それとことしのPBベスト3を発表するつもり。年内にできるかな。また気が向いたら読んでくだされ。
posted by デンスケ at 21:59| Comment(4) | PB | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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